孝介だより【お話⑥】
はい。こんばんは。
本日もお読み頂きありがとうございます。
孝介です。
いやー、にしても今日は寒い。
雪降ってたし。
と言うことで続きをどうぞ。
養成所を辞めてからの青年は
片っ端からオーディションを受け、
デモテープを送ったりの日々を
繰り返していました。
その他と言えば、毎日毎日
生きるために働くアルバイト。
青年のフラストレーションは
限界を超えていました。
辛うじて歌うことは続けていましたが
幼い頃の夢、上京した時の希望、野心は
彼の心から消え去っていました。
"何しにこんなクソみたいな思いして
バイトして、こんな所にいて、歌に
しがみついて。何してんだクソが。"
いつしかこれが青年の
口癖になっていました。
けれど彼は"歌を捨てる"
その選択だけは出来ませんでした。
"自分から歌を取り上げたら
何もなくなる。"
それが怖くて仕方なかったからです。
青年は無機質で無刺激な日々を何とか
抜け出そうと路上ライブを始めます。
そこで彼は初めて挫折というものを
味わいます。
歌えど歌えど、歌えど歌えど。
行き交う人は見向きもしないのです。
来る日も来る日も結果は変わらず。
お世辞にも上手いとは言えない。
そんな歌い手の所には人が集まり、
それより遥かに上手いはずの
自分のところには、邪魔だと
言わんばかりの目つきで
通り過ぎる人達。
彼には理解することが
出来ませんでした。
しかし、ある冬の路上ライブ。
1人の女性が青年の歌に
立ち止まりました。
寒い中、その女性は身体を
摩る仕草も見せず
ただただ、じっと黙って
青年の歌を聴いていました。
そしてその頬からは一筋の
涙が伝っていました。
青年は気にも止めませんでした。
"今日も人少なかった。はぁ。
くそ。明日も頑張ろ。"と。
そんなある日のオーディション
でのことでした。
出来栄えは他の歌い手より
確実に良い。
審査員の反応も良い。
これはイケると青年は思いました。
しかし彼は弾かれました。
もちろん彼は納得いくはずもなく
主催会社に連絡をするのでした。
これまでと同じように。
つづく